分散投資について調べると、株式だけでなく、債券、不動産、金、コモディティなど、さまざまな資産を組み合わせる方法が紹介されています。すると、「できるだけ多くの資産を持った方が安全なのでは?」と思うかもしれません。
しかし、資産クラスを増やせば、それだけで投資成果が良くなるわけではありません。大切なのは、その資産を何のために持つのかです。今回は、不動産やコモディティをポートフォリオに加える意味と、個人投資家がどこまで分散すべきかを考えます。
「資産クラスを増やす=リターンが上がる」ではない
株式、債券、不動産、金、コモディティなど、投資対象にはさまざまな資産クラスがあります。
ここで注意したいのが、「いろいろな資産を持てば、より高いリターンを得られる」というわけではないことです。
たとえば、長期的な資産成長を目的として株式を中心に投資している人が、そこに債券やコモディティを追加したとします。
このとき、追加した資産の期待リターンが株式より低ければ、ポートフォリオ全体の期待リターンが上がるとは限りません。むしろ、リターンだけを見れば低下する可能性もあります。
それでも他の資産を組み合わせる意味があるのは、分散投資の目的が「リターンを最大化すること」だけではないからです。
たとえば株式と異なる値動きをする資産を組み合わせれば、株式市場が大きく下落したときの損失を和らげられる可能性があります。
つまり、株式以外の資産を持つ目的は、
- より高いリターンを狙う
- ポートフォリオの値動きを抑える
- 特定の経済環境への耐性を高める
といった複数の目的に分けて考える必要があります。
「分散した方がよいから、とりあえず別の資産も買う」ではなく、まずは何を改善したいのかを明確にすることが重要です。
不動産・コモディティを入れる主な目的
では、不動産やコモディティをポートフォリオに組み入れることには、どのような意味があるのでしょうか。
代表的なのは、ポートフォリオ全体の性質を変えることです。
値動きを緩和する
株式に資産の大部分を集中させると、株式市場が下落したときに資産全体も大きく減少します。
そこで、株式とは異なる値動きをする資産を組み合わせれば、一方の資産が下落しているときに、他の資産が必ずしも同じ幅で下落するとは限りません。
その結果、ポートフォリオ全体の値動きを抑えられる可能性があります。
重要なのは、それぞれの資産を単独で見るのではなく、組み合わせたときに資産全体がどう動くかを見ることです。
株式下落時の耐性を高める
資産形成では、平均的なリターンだけでなく、大きな下落に耐えられるかも重要です。
たとえば株式だけを保有していて、大幅な市場下落によって資産が急減すると、心理的に耐えられず売却してしまう可能性があります。
また、資産を取り崩して生活している場合には、下落相場でも必要な生活費を確保しなければなりません。
株式とは異なる特徴を持つ資産を組み合わせることで、こうした局面への耐性を高めるという考え方があります。
インフレへの耐性を持たせる
物価が上昇すると、現金の実質的な価値は下がります。
不動産やコモディティなどの実物資産は、こうしたインフレへの耐性を期待して組み入れられることがあります。
ただし、「インフレ対策になるから必ず持つべき」と単純に考える必要はありません。
すでに保有している資産がインフレに対してどの程度対応できるのか、そのうえでさらに別の資産を追加する必要があるのかを考えるべきでしょう。
資産取り崩し時の安定性を高める
資産形成中は、「長期的にどれだけ増えるか」に目が向きやすくなります。
一方、退職後など資産を取り崩す段階では事情が変わります。
生活費のために定期的な売却が必要なときに株式市場が大きく下落すると、安値で株式を売らなければならない可能性があります。
そのため、資産を増やす時期よりも取り崩す時期の方が、ポートフォリオの安定性を重視する意味が大きくなる場合があります。
不動産やコモディティを含む複数の資産を検討する理由も、単なるリターン向上ではなく、こうした資産全体の安定性を調整することにあります。
個人投資家は複雑な分散が本当に必要か
理論上は、異なる値動きをする資産を幅広く持つことで、より細かくポートフォリオの性質を調整できます。
ただし、個人投資家にとっては、資産クラスを増やすほどよいとは限りません。
資産の種類を増やせば、
- どの商品を選ぶか
- どの比率で保有するか
- いつリバランスするか
- それぞれの資産をどの口座で持つか
- 保有を継続するべきか
など、考えることも増えていきます。
最初は「分散したい」という理由で追加したにもかかわらず、気づけば自分でもなぜ持っているのか説明できない商品が増えている、ということも起こり得ます。
一方で、個人の資産形成では、株式、債券、現金という比較的シンプルな構成でも、それぞれに役割を持たせることができます。
たとえば、
- 株式:長期的な資産成長を狙う
- 債券:株式より値動きを抑え、リスクを調整する
- 現金:近い将来必要になる支出や生活防衛資金に備える
と整理できます。
これだけでも、「増やす資産」「リスクを抑える資産」「すぐ使うための資産」という基本的な役割分担はできます。
もちろん、不動産やコモディティを組み合わせること自体が悪いわけではありません。
問題なのは、「分散できるから」という理由だけで資産を追加することです。
投資対象を増やす前に、「今のポートフォリオでは何が足りないのか」を考えた方が、資産配分の目的が明確になります。
不動産・コモディティを検討するときの判断基準
では、不動産やコモディティを追加すべきかどうかは、どのように判断すればよいのでしょうか。
ポイントは、商品から考えるのではなく、解決したい問題から考えることです。
まず、「株式・債券・現金だけでは不足する目的があるか」を考えます。
たとえば、
「株式への依存度をさらに下げたい」
「インフレへの耐性をもっと強化したい」
「資産を取り崩す時期に入り、ポートフォリオ全体の値動きをさらに抑えたい」
といった明確な目的があるなら、別の資産クラスを検討する意味があります。
反対に、
「投資の本に載っていたから」
「分散投資なら金も不動産も必要そうだから」
「いろいろ持っている方が安全そうだから」
という程度であれば、一度立ち止まって考えた方がよいでしょう。
資産クラスを追加することには、商品選びや管理、リバランスなどの手間も伴います。
そのため、追加によって得られるメリットだけでなく、複雑性というコストに見合うかも判断する必要があります。
投資では、複雑なポートフォリオを作ること自体が目的ではありません。
自分の目的に必要な機能を、できるだけシンプルな構成で実現できるのであれば、それも合理的な選択です。
まとめ
分散投資で重要なのは、できるだけ多くの種類の資産を持つことではありません。それぞれの資産に明確な役割を持たせることです。
不動産やコモディティも、単純にリターンを高めるためではなく、値動きの緩和、下落への耐性、インフレ対策、資産取り崩し時の安定化などを目的として使われます。
まずは自分のポートフォリオにどのような課題があるのかを考えてみましょう。株式・債券・現金だけで必要な役割を満たせているのであれば、分散のためだけに無理に資産クラスを増やす必要はありません。

