投資を始めると、「どの商品なら最も増えるか」「どうすれば高いリターンを得られるか」に目が向きがちです。しかし、長期的な資産形成で優先すべきなのは、最大の利益を狙うことではありません。
重要なのは、一度の失敗で投資を続けられなくなるような大きな損を避けることです。資産形成は短期間で勝敗を決めるものではなく、市場に残りながら、時間をかけて資産を積み上げていく取り組みです。
大きな損失ほど、元に戻すのが難しくなる
資産が値下がりした割合と、元の金額へ戻すために必要な上昇率は同じではありません。
例えば、100万円の資産が50%下落すると、残るのは50万円です。50万円を再び100万円に戻すには、50%の上昇では足りません。資産を2倍にする必要があるため、100%の上昇が必要です。
損失と回復に必要な上昇率の関係を整理すると、次のようになります。
| 資産の下落率 | 元に戻すために必要な上昇率 |
|---|---|
| 10%下落 | 約11% |
| 20%下落 | 25% |
| 30%下落 | 約43% |
| 50%下落 | 100% |
| 70%下落 | 約233% |
下落率が大きくなるほど、回復に必要なリターンは急激に高くなります。
もちろん、株式市場では価格の下落を完全に避けることはできません。しかし、特定の投資対象へ資金を集中させたり、借金を使って投資したり、生活に必要なお金まで投資に回したりすると、通常の値下がりが立て直しの難しい損失へ変わる可能性があります。
資産形成では、利益を最大化することを考える前に、資産を致命的な水準まで減らさないことが重要です。
資産形成は「一度で勝つゲーム」ではない
短期間で資産を大きく増やそうとすると、高いリターンが期待できそうな商品や、値動きの大きな投資先に魅力を感じやすくなります。
しかし、一般的に大きな利益を狙う投資ほど、反対方向に動いた場合の損失も大きくなります。一度はうまくいったとしても、同じ方法を繰り返すうちに大きな損失を出し、それまでの利益を失うこともあります。
資産形成は、一度の投資で大きく勝つことを目指すものではありません。
毎月の収入から一定額を投資し、運用期間を長く取りながら、少しずつ資産を積み上げていく取り組みです。長い期間をかけて行うからこそ、途中で投資をやめざるを得なくなるようなリスクは避ける必要があります。
投資方針を考える際は、「どれくらい増える可能性があるか」だけでなく、次の視点を持つことが大切です。
- 大きく値下がりしても保有を続けられるか
- 損失が出ても生活に影響しないか
- 相場が悪い時期にも積み立てを継続できるか
- 不安になって売却してしまうほどの金額を投資していないか
高いリターンを得られる投資より、無理なく続けられる投資のほうが、長期の資産形成には向いています。
生活資金と投資資金を明確に分ける
大きな損失を避けるために、最初に行うべきなのが、生活資金と投資資金の切り分けです。
数年以内に使う予定のあるお金まで投資すると、相場が下落したタイミングで現金が必要になり、損失を抱えたまま売却せざるを得なくなる可能性があります。
例えば、次のようなお金は株式などの値動きが大きい資産に回さず、現金などで確保しておくことが基本です。
- 毎月の生活費
- 急な病気や失業に備える資金
- 近いうちに予定している住宅購入資金
- 子どもの進学など、使用時期が決まっている資金
- 車の購入や修繕などに必要な資金
一方、当面使う予定がなく、値下がりしても長期間保有できるお金は、投資資金として扱いやすくなります。
重要なのは、投資額を決める際に「現時点で口座にいくらあるか」だけを見ないことです。将来必要になる支出を考慮したうえで、十分な生活資金を残し、そのうえで余った資金を投資へ回します。
また、生活資金が不足するたびに投資商品を売却し、余裕ができたら再び購入するような運用も避けたほうがよいでしょう。売買のタイミングが増えるほど、相場状況に左右されやすくなるからです。
生活資金は生活を守るためのお金、投資資金は長期間育てるためのお金として役割を分け、両者を頻繁に入れ替えない設計にすることが大切です。
「価格が下がること」と「致命傷を負うこと」は違う
投資のリスク管理というと、「できる限り値下がりしない商品を選ぶこと」だと考える人もいるかもしれません。
しかし、株式投資をする以上、一時的な価格下落を完全に避けることはできません。幅広く分散された株式インデックスであっても、市場全体の悪化によって大きく値下がりすることがあります。
ここで区別すべきなのが、単なる値下がりと致命傷です。
投資資産が一時的に下落しても、生活に必要なお金が確保されており、売却せずに保有を続けられるのであれば、直ちに資産形成が失敗したとはいえません。
一方、同じ値下がり幅でも、近いうちに使うお金を投資していた場合は状況が異なります。生活費や住宅購入資金が必要になれば、価格が回復するまで待てず、損失を確定させなければなりません。
つまり、問題なのは値下がりそのものではなく、値下がりによって次のような状態になることです。
- 生活費が不足する
- 必要な支払いができなくなる
- 損失に耐えられず売却する
- 投資を続ける余力がなくなる
- 短期間で損失を取り戻そうとして、さらに大きなリスクを取る
リスク管理の目的は、価格変動をなくすことではありません。価格が下がっても、生活を維持しながら投資を続けられる状態を作ることです。
自分が耐えられる損失から投資方針を決める
投資を始めるときは、商品選びから考えたくなります。しかし、本来は商品を選ぶ前に、自分がどの程度の損失まで耐えられるかを確認する必要があります。
例えば、投資資産が一時的に30%下落した場面を想像してみましょう。
300万円を投資していれば、評価額は210万円になります。1,000万円を投資していれば、700万円です。下落率は同じでも、金額が大きくなるほど心理的な負担は増えやすくなります。
「長期投資だから売らない」と考えていても、実際に数百万円単位で資産が減れば、不安になって方針を変えたくなるかもしれません。
そのため、投資方針は理論上取れるリスクではなく、実際に自分が耐えられるリスクを基準に決めます。
判断する際は、次の点を確認するとよいでしょう。
必要時期が近いお金を投資していないか
使う時期が決まっているお金は、価格が回復するまで待てない可能性があります。使用時期が近い資金ほど、安全性を優先して管理します。
特定の投資対象へ偏りすぎていないか
特定の企業、国、業種などへ集中すると、その対象の不調が資産全体に大きな影響を与えます。一つの予測が外れても資産形成全体が崩れないよう、投資先を偏らせすぎないことが重要です。
リターンを求めすぎていないか
「もっと早く増やしたい」と考え始めると、必要以上に値動きの大きな商品へ手を出しやすくなります。しかし、高いリターンが必要な理由がないのであれば、無理に大きなリスクを取る必要もありません。
下落時にも保有を続けられる金額か
投資額は、家計上の余裕だけでなく、心理的に耐えられる範囲で決めます。不安で日常生活に影響が出たり、毎日価格を確認したくなったりする場合は、投資額や資産配分が自分に合っていない可能性があります。
最適な投資方法は、最も高いリターンが期待できる方法ではありません。相場が悪い時期にも方針を変えず、長期間続けられる方法です。
まとめ
資産形成では、大きく増やすことよりも先に、大きく減らさない仕組みを作ることが重要です。損失が大きくなるほど回復に必要なリターンは高くなり、一度の失敗がその後の運用へ大きな影響を与えます。
まずは生活資金と投資資金を分け、近いうちに必要なお金を投資しないようにしましょう。そのうえで、値下がりしても生活に影響せず、保有を続けられる範囲で投資額や資産配分を決めます。投資商品を選ぶ前に、自分が市場に残り続けられる設計になっているかを確認することが、長期的な資産形成の第一歩です。
