「現金を持っていても増えないから、できるだけ投資に回した方がいい」と考える人もいるでしょう。確かに、長期的な資産形成では投資に回す割合を高めることは重要です。
しかし、現金には投資とはまったく違う役割があります。それは、相場が暴落しても投資資産を売らずに生活できる状態を作ることです。
では、現金はいくら残しておけばよいのでしょうか。この記事では、資産形成を続けるための「安全資金」という視点から考えていきます。
現金は「投資しないお金」ではなくポートフォリオの安全装置
資産形成を考えていると、どうしても「どの資産が一番増えるか」に目が向きます。
株式には長期的な値上がりが期待できる一方、現金は基本的に大きなリターンを生みません。そのため、
「現金を持っているのはもったいない」
「生活費以外は全部投資した方がいい」
と考えたくなるかもしれません。
しかし、株式と現金はそもそも役割が違います。
株式は、長期的に資産を増やすための資産です。一方、現金の重要な役割は、短期的にお金が必要になったときに確実に使えることです。
たとえば株式市場が大きく下落しているときに、収入が減ったり、大きな出費が発生したりしたとします。
十分な現金があれば、そのお金で生活できます。しかし、ほとんどの資産を投資している場合には、値下がりした株式を売って現金を作らなければならない可能性があります。
つまり、現金は単に「まだ投資していないお金」ではありません。
投資資産を最も売りたくないタイミングで売らなくて済むようにする、安全装置のような資産と考えることができます。
また、現金が十分にあることは精神面でも重要です。
相場が30%、40%と下落したとき、「このまま下がり続けたら生活できなくなる」と感じる状態と、「数年間は現金だけでも生活できる」と分かっている状態では、同じ値下がりでも感じ方は大きく変わります。
長期投資を続けるには、期待リターンだけではなく、自分が安心して保有を続けられる資産構成にすることも大切です。
現金はいくら必要?生活費・緊急出費・収入減少から考える
では、具体的にどのくらいの現金を持てばよいのでしょうか。
万人に共通する「資産の○%」という正解があるわけではありません。むしろ、自分がどのような状況で現金を必要とするかから逆算した方が考えやすくなります。
大きく分けると、考えておきたいのは次の3つです。
- 日常生活で使うお金
- 医療費や住宅・家電の修理など、突然必要になるお金
- 収入が途絶えたり大きく減ったりした場合に生活を続けるためのお金
この中でも特に大きいのが、最後の「収入がなくなった場合の生活資金」です。
一つの考え方として、最低でも収入がなくなってから1年間生活できる程度の現金を確保しておく方法があります。
より安全性を重視するのであれば、2〜3年程度の生活費まで現金として持っておくという考え方もあります。
もちろん、2〜3年分が誰にとっても正解というわけではありません。
必要額は、雇用の安定性、家族構成、毎月の生活費、今後予定されている大きな支出などによって変わります。
たとえば、収入が安定していて再就職もしやすい人と、収入の変動が大きい人では、必要な安全資金は同じではありません。住宅購入や教育費など、近い将来に使うことが決まっているお金がある場合も、その分は投資資金とは分けて考える必要があります。
したがって、
「資産の20%を現金にする」
といった比率から考えるより、
「収入が止まっても、自分は何年間なら投資を売らずに生活できるか」
と考えた方が、安全資金の意味が明確になります。
最も避けたいのは暴落時の「強制売却」
現金を持つ最大の意味を理解するには、反対に「現金がないと何が起きるか」を考えると分かりやすくなります。
たとえば1,000万円を株式で保有していたところ、市場が大きく下落し、評価額が600万円になったとします。
長期投資であれば、その時点で生活に必要なお金でない限り、売却せずに市場の回復を待つという選択ができます。
しかし同じタイミングで収入が途絶え、生活費として100万円が必要になったらどうでしょうか。
手元に現金がなければ、600万円まで値下がりした投資資産の一部を売却しなければなりません。
その後、市場が回復したとしても、すでに売却した資産は回復の恩恵を受けられません。
これが、長期投資で避けたい「強制売却」です。
重要なのは、「暴落がいつ起きるか」を予測することではありません。
暴落と、自分がお金を必要とする時期が重なったとしても、投資資産を売らずに済むように準備しておくことです。
この意味では、現金とは単なる安全資産ではなく、市場が回復するまで待つための「時間を買う資産」とも言えます。
長期投資では、途中で大きな値下がりがあっても投資を継続できることが重要です。
そのため、株式比率を限界まで高めることよりも、暴落時にもその株式を持ち続けられる資産構成にしておく方が、実際の運用では重要になる場合があります。
生活防衛資金と「暴落時の買い付け余力」は分けて考える
現金には、もう一つの役割があります。
相場が大きく下落したときに、追加投資するための資金です。
株価が下がったときに投資できる現金を残しておけば、通常より安い価格で株式を買える可能性があります。
ただし、ここで注意したいのが、生活を守るための現金と、投資するための現金を混同しないことです。
たとえば500万円の現金を持っていたとしても、その500万円すべてが自由に投資できるとは限りません。
そのうち400万円が、収入がなくなった場合の生活費として必要なのであれば、実質的な投資余力は100万円です。
整理すると、
- 生活防衛資金:何があっても生活を維持するためのお金
- 投資用待機資金:暴落時などに追加投資するためのお金
というように、目的を分けて考えると分かりやすくなります。
特に生活防衛資金については、「株価が下がったから使う」のではなく、基本的には生活を守るために確保しておく資金です。
一方で、暴落時の投資機会を逃したくないからといって、必要以上の現金を何年も持ち続けるのも考えものです。
暴落がいつ来るかは分かりません。相場が上昇し続ければ、現金を持って待っている間の機会損失が大きくなる可能性もあります。
したがって、まず必要な生活防衛資金を確保する。そのうえで、追加投資用の現金を持つかどうかは、自分の投資方針として別に決める。この順番で考えると整理しやすくなります。
まとめ
現金をいくら残すべきかに、万人共通の正解はありません。
大切なのは、現金比率そのものではなく、「もし投資資産が大きく値下がりしても、それを売らずに生活を続けられるか」という視点です。
日常の支出や緊急出費に加え、最低1年、より安全性を重視するなら2〜3年程度の生活資金まで考え、自分に必要な安全資金を整理してみましょう。
そのうえで、長期間使う予定のないお金を投資に回す。これなら、市場が大きく下落しても慌てて売る必要がなくなります。
自分が安心して眠れるだけの現金を持ち、その残りで長期投資を続ける。 現金は資産形成の邪魔ではなく、長期投資を続けるための土台です。
